お金には色が付いています。
【A社、B社、C社の中で財務内容の良い順に選んでみてください。】 
   A社  B社  C社
 1.「儲けのお金」 50,000,000  50,000,000  50,000,000 
 2.「運転資金のお金」  -20,000,000 10,000,000  -10,000,000 
 3.「付き合いのお金」  -10,000,000 10,000,000   40,000,000
 4.「土俵造りのお金」  80,000,000  30,000,000 20,000,000 
 1+2+3+4
月末(期末)キャッシュ有高
 100,000,000  100,000,000 100,000,000 


中小企業は、地域経済や人々の暮らしを支える力であり、雇用の大部分を支える社会の根幹ともいうべき存在です。しかし一方では資金や人材などに制約があるため、外からの変化に弱く、不公平な取引を強いられるなど数多くの困難に晒されています。なかんずく財務基盤の脆弱さは、中小企業に求められる意思決定の素早さや行動力、個性豊かな得意分野・市場の創造を阻害する要因といえます。

 したがって、一社でも多くの中小企業が、自社の財務の課題と問題点を把握し克服するなかで、真に財務基盤の強い企業へ成長する一助にしていただきたいとの願いで、浅学非才ではありますが、平成23年のことですが当時のマスコミを騒がした上場企業の財務をその時に分析した結果をご報告いたします。

 なお、分析にあたり財務計画ソフト「融次郎」に、全国の税理士・公認会計士の研究の成果である「お金」に「色を付けて」分析する手法を組み込んだ「FCF羅針盤」ソフトを活用させていただきました。 また、この「色付け」の分析において、私なりに説明の仕方を変更しておりますが、説明に不行き届きの点は私の未熟といたすところですので、どうかご容赦いただき忌憚のないご意見やご批判を賜りたくお願い申し上げます。
                          平成29年11月10日 税理士 岡 陽三郎

どのような分析をしたのか?
まず過去6年分の有価証券報告書と、訂正有価証券報告書の数値を各々ソフトに入力しました。なお、この数値は連結財務諸表でなく、上場企業本体の数値としました。つまり、関係会社との取引を明瞭に判断するためです。
分析の結論から先に言って、どうだったか?
架空の収益を架空の売掛金で操作するような古典的な粉飾は認められませんでしたが各期末の現金預金(キャッシュの有高)を「色付け」して分析すれば、通常ありえない投資活動をしていることになり「あれ?本当かな」という結論になっています。したがって、実際は損しているのに、儲かっていると操作している結果は「財務諸表に正直に現れるな」ということです。
どこを、どのように粉飾していたのか?
資産と認められなくなったものを費用に計上せず別の資産で置き換えていたということです。損益計算書と貸借対照表を合体させれば、図@のような「四角四面」になりますが、図Aのような財務報告の実態は図Bであったということです。
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現金預金(キャッシュの有高)を「色付け」するとは、どのようなことか?
「四角四面」の会計原理をお金の流れで見ますと、下図のようになります。したがって、このお金の流れは、貸借対照表、損益計算書の各々の勘定科目で表現されますから、現金預金(キャッシュの有高)を大きく分けて「4種類」に色分けします。院長写真
















色分けの「4種類」のとは?
「儲けの色」「運転資金の色」「付き合いの色」「土俵造りの色」に色分けします。

「儲けの色」とは、10の商品を15で売却した場合の5の利益の色です。

「運転資金の色」とは、商品10を掛けで購入し、15で掛売りした場合の売掛掛金に関する色です。つまりこの場合15の売掛金が回収され手許15のがあったとしても、10は買掛金の支払いのために必要なお金の色です。

「付き合いの色」とは、税金支払うための未払法人税等、社員さんから社会保険料として預っている預り金や、仮払金、立替金などのお金の色です。

「土俵造りの色」とは、どのような規模で、どのような市場で、どのような事業を展開していくかの経営判断のうえになされる設備投資等のお金の色です。また、この中には投資目的で支出したお金も含まれます。
財務を色分けした結果は?
訂正前の有価証券報告書の数値では下の表のような結果となっています。↓単位:百万
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現金預金(キャッシュの有高)を色分けした結果、どこが、どのような理由で「おかしい」のか?
まず、誰でも気づくことは、20年3月期が異常な数値を示していることです。特に「土俵造りのお金」がこの期までマイナスであり、かつ当期にマイナスが大きく増えています。また「運転資金のお金」が急増し「付き合いのお金」が急減していることです。これらの異常な変化に係る勘定科目は楕円赤○で表示しています。
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上記の画面から続きます。
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「土俵造りのお金」のマイナスについて
「土俵造りのお金」は、設備資金もしくは投資活動に係るものですから、それを捻出する資金は通常長期の資金、つまり社債や長期借入金等の資金で対応し、短期間での返済を求められる短期性資金では対応しないはずです。したがって、通常はプラス(資本金や長期借入金等の合計額−固定資産=プラス)になります。オリンパスは異常に大きなマイナスとなっていますので下記のような疑問が浮かびます。

(1)固定資産の増加812億(うち投資有価証券増加536億)に対し、長期性資金で対応したのは約90億のみ(評価換算差額を含み、長期借入金は300億の増加)であり、短期の資金で長期性資産を確保するという通常考えられない財務計画のもとに固定資産(特に「投資有価証券等」)を増加させているのか?

(2)上記のような異常な財務計画はないとするならば、意図的に評価換算差額(投資目的の有価証券等の時価換算)で評価減処理をしなかったのではないのか。つまり、実態は1ページの図Bを図Aのように操作していたのではないか?

(3)上記の(1)または(2)の疑問に対して、大きな利益を出して潤沢な「儲けのお金」があったから、あえて長期の借入金や社債の発行を実行する必要がなかったとの反論に対して、過去6期分の決算書の実績の数値を基礎として「予測損益計算書」「予測貸借対照表」を作成し、将来のキャッシュフローを予測してみますと、下記の黄色の棒グラフのとおり3年後は資金ショートとなります。したがって大きな利益を出していたとの主張は大きな疑問です。また、あえてこのように過去の実績の数値を基礎として、将来の財務内容を予測するまでもなく、過去6期の実績は営業損失であったという実態からも、大きな利益を出していたとの主張は信じられません。
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※予測に当たっては、新たな借入金の発生、社債の発行は予定せず、売上は23年3月期と同額で推移するものとし、新規の設備投資は減価償却を考慮して必要最低限として予測しています。投資その他の資産などの増減はないと仮定するとともに、実績中の営業外収益・費用および特別利益・特別損失で将来の発生が予測されないものは、実績中の特異性として排除しています。


「運転資金のお金」について
「運転資金のお金」は、通常各期とも大きな変動はありません。大きな変動があるとすれば、資金繰りに窮して短期の借入をしたり、支払手形をジャンプさせたり、買掛金の支払いを遅延させたりする結果、その期末残高が異常に多くなり「運転資金のお金」も大きなプラスになります。この企業においては、当座の資金繰りに窮したというより「投資有価証券等」または「関係会社短期貸付金」の資金確保のため「短期借入金」を急増させたため「運転資金のお金」が大きなプラスとなっています。


「付き合いのお金」について
「付き合いのお金」も通常は各期とも大きな変動はありません。なぜならば「付き合いのお金」として認識される各勘定は、短期の回収や短期の支払いが予定される勘定ですから、通常の事業を展開している限り大きな変動はないはずです。オリンパスにおいては、「関係会社短期貸付金」が異常に増加していますから、この期に子会社等で大きな問題が発生したと思われます。また「預り金」も注意すべき事項です。

色分け分析の結果は、「投資有価証券などの評価減を損失として処理しなかった」ということか?
そのとおりです。あらためて2ページで表示の訂正前の有価証券報告書を色分けした表を見ますと、20年3月期までは「土俵造りのお金」がマイナスで、21年3月期からプラスに転じています。つまり、21年3月期に約700億の特別損失を計上し投資有価証券等を評価減したことで、ようやく「土俵造りのお金」はプラスとなったのです。したがって20年3月までは資産として認識しては行けないものを損失として計上せず1ページの図Aのように操作していたと判断されます。このような操作は必然的に利益の過大計上を意味しますから、繰越利益が過大に計上されていて「儲けのお金」も多額にあったと操作されていたわけです。
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「訂正有価証券報告書」の数値を色分けすると、下表のとおり「儲けのお金」は6期ともマイナスです。
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訂正前と訂正後の数値の差は下表のとおりです。「土俵造りのお金」で操作し、「儲けのお金」が多くあったかのように操作していたことが分かると思います。
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以上、財務分析で厳しい評価をいたしましたが、同社の再生は当然に可能だと確信し、中小企業の財務の課題を克服する一つの手段として参考になりはしないかと愚考し、私なりに同社再生のための財務計画(案)も作成しております。

中小企業の財務の課題と問題点について

上場会社と中小企業の財務と関係があるのか?
規模の大小だけの違いです。百万円の単位を千円の単位で置き換えてみてください。中小企業の財務とほぼ大差なく見ることができます。つまり、大企業と言えども人間が経営していることに変わりありません。財務は人間が営んでいる経営の実態を数字で正直に表現します。

この問題は特殊であって、中小企業と関係ないと思うが?
確かに特殊例外的な問題です。しかし、お金に色付けして分析してみたり、過去の実績を基に将来の財務をキャツシュフローを中心に予測する限り、この企業は財務戦略や財務計画で大きな判断ミスを続けてきたと言えると思います。このような財務スタッフが揃った大企業ですらそうですから、より多くの不確実性とリスクに晒されている中小企業が、大企業ほどに複雑でない自社の財務を分析しないということは、市場という競技会の中で健康診断もしないでマラソン競争に臨むようなものだと思います。

中小企業の財務の課題は何か?
まず、日々の経理を「ないがしろ」にしないことです。少なくともできるだけ早く前月の実績を損益計算書、貸借対照表で見れるようにすることです。なぜなら、私たち経営者は「顕在意識」で行動しているのではなく、「潜在意識」で行動しているからです。つまり、毎月直近の実績を早めに見て行くことで「もう少し売上があったら利益が出ていたのに」とか「この経費がまったく無駄だったな」とかの思いや経営会議での議論が潜在意識に落とし込まれて、必然的無意識のうちに利益を出す行動を起こすからです。

次に、自社の財務の「健康診断」をして頂きたいことです。私たち経営者は、借金であろうが何であろうが通帳残高が相応にあると、すぐ慢心していまう傾向があります。したがって「儲けのお金」がはたして存在しているのか?新規事業、新市場進出のための「土俵造りのお金」はどうなっているか?などの冷静な分析を行う必要があります。

「思いはすべてに先立ち、すべては思いによって成る」という聖人の言葉がありますが、目標なり目的を達成するためには、達成できた状況を具体的にイメージせよ、つまりビジュアル化(視覚化)せよ、と多くの経営指南書に指摘されています。その最も効果的な方法は「財務計画」を作ることだと思います。できれば、予測貸借対照表を作ることをお勧めします。「売上はこのように、経費はこうだ」という利益計画は誰でも作ることが可能ですが、キャッシュの予測なくして資金繰り・資金計画はありません。そのためには過去の実績を参考にして、手作りで構いませんから予測貸借対照表を作ることでキャッシュの有高を予測・計画して頂きたいと思います。

「財務計画を作れ」というが、たいがいは「計画倒れ」で終わる。
そのとおりです。計画を作って一時の満足で終わるのが大多数です。しかし重要なのはその計画を実績で検証する作業です。つまり、計画と現実のフィードバック作業です。またこの作業は「実績を計画で検証する」ことですから、ただ単に月々の損益計算書、貸借対照表を眺めるだけでは分からない財務の課題や問題点が鮮明に浮かび上がってきます。したがって、計画すらないことは、見知らぬ土地でカーナビのない車に乗るようなものですし、航海で言えば羅針盤なくして荒海に乗り出すようなもので、沈没・坐礁は免れません。ぜひ身体でいえば「健康診断」を行い、病があれば「処方箋」をもらい「再検査」をし「壮健な身体」を保つように、「財務分析」を行い「財務計画」を作り「実績を計画で検証」することで、課題と問題点を克服して「力強い中小企業」を作り上げて頂きたいと思います。